先手3六歩成

朝起きると腰痛。なかなかの重傷。季節の変わり目は体調を崩しやすいというが、腰痛にもそれが当てはまるのだろうか。1時間ほどかけてゆっくりストレッチして何とか動ける状態になったので出勤。買い出しのため商店街に行くと、馴染みのとまでは言わないが、何度か行ったことのある老舗のカステラ屋さんが八百屋さんに変わってしまっていた。こうやって気付かぬうちに一つ一つ変わっていき、いつの間にか今の街並みの面影さえすっかりなくなってしまうんだろうなあ。と、感傷的な気分に浸りながら目的の100均へ向かう。そこにはいつもだいたい同じ若い男性の店員さんがいて、言葉では形容できない独特の調子のしゃべりと動きでレジを打つ、一つ間違えば単に調子乗ってるだけと思われかねないような、そんなちょっとした名物店員のような人がいたのだけれど、今日は普段見たことのない年配のオーナー風の男性がレジに立っていた。もしかしてあの名物店員も辞めてしまったのだろうか。正直ちょっと鬱陶しかったけれどいなくなると寂しいものだなあと、再び感傷に浸りながらレジへジップロックの箱一つと箱入りのナイロン袋を持って行った。時は金なり、常時いかに時間を短縮するかということを考えている僕は商品を置くと同時に財布を開いた。100均なので消費税を含めた値段までわかりきっているのである。店員さんがジップロックのバーコードを読み取り、ピッ。ナイロン袋をピッ。予想通り216円と表示された。予想通りの金額ではあったが、予想外に小銭を探すのに戸惑っていると。

「このままでよろしいですか?」

と袋はいらないのか?ということを聞いてくる。こちとら手ぶらでしかも商品2個。ポケットに入るようなサイズならまだしも、これを小脇に抱えて帰りたいと思うのだろうか?なんならこの後他の買い物もあるし。

「あの…袋、お願いします。」

ああ、そうですかといった感じで彼は、おそらく自分の言ったことには何の疑問も抱かずに商品を袋に詰めた。ははん。一見オーナー風だが、実際のところは最近入ったばかりの新人なのだろう。今の今まで会社勤めで100均で買い物もしたこと無いような人なんだろうか。もしかして環境汚染云々でマニュアルに袋の有無を確認するように書かれているのかもしれない。まあそれはそれとして、いい感じの小銭がなかったので僕は1000円札1枚と1円玉1枚、計1001円を出した。すると彼は、

「1100円お預かりいたします。」

と言ってお金を受け取った。普通216円に対してそんな支払い方するやつおらんやん。すぐ気付けよ。と、思ったけど声には出さず黙って見ていると、ワンテンポかツーテンポ遅れて、

「あ、1001円ですね。失礼しました。」

と、口ではそう言いながらも、まるで自分は何も間違っていないかのように、あくまでクールに、指差し確認のような動きをしながら無表情で金額を入力していく。ははん。やはり素人、最初のうちはそれくらいのことはよくあるよ、恥ずかしいことでもないけれど照れ笑いの一つくらいあってもいいんだよ、と心の中で慰めてあげると、突然、ハッ、と彼は何かに気付いたような表情になり、おもむろに袋から先ほどの商品を取り出してもう一度バーコードを読み取り出した。いや、いやいやいやいや。何を間違えたかは知らんけど、そんなことしたらまた値段変わってややこしくなるやん絶対。と思ったら案の定。
ジップロックをピッ、324円。
ほらー、言わんこっちゃない、ストップストップ。しかし僕の心の叫びは彼には届かず、続けてナイロン袋をピッ、432円。
あーあ、めんどくさいことになったで。また一からやり直さなあかんのちゃうん。早よ帰りたいねんけど、俺は。腰も痛いし。と次の一手を注視していると彼は平然とこう言い放った。

「お会計は432円になります。」

「なるかー‼︎」

「一体どこをどう間違ったらそうなるねんっ‼︎‼︎」

と、若干食い気味で、我ながら見事な間で突っ込んだものの、やはりクールに、ワンテンポ遅れて。

「あ、失礼しました。216円になります。」

とかわされ会計を済ましその場を後にした。

この当たり前の街並みも、調子乗りの店員も、無くなるまではその大切さに気付かないものなのだなあ、と感傷に浸りながら帰路にについたのであった。

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